• ボイスドラマ「10年目の成人式」

  • Feb 10 2025
  • Length: 15 mins
  • Podcast

ボイスドラマ「10年目の成人式」

  • Summary

  • 成人式という人生の大切な節目を舞台に、「約束」と「時間」が織りなす切なくも温かなドラマを描きました。成人の日は、ただの通過点ではなく、人それぞれの想いが交錯する特別な一日です。大切な人と交わした約束、果たされなかった言葉、そして時間がもたらす変化——。そんな想いを込めて、この物語を紡ぎました。また、本作はボイスドラマ としても制作され、実際に音声で楽しむことができます。Spotify、Amazon、Appleなど各種Podcastプラットフォーム、そして「Hit’s Me Up!」の公式サイト にて配信中です。声優の方々が演じる登場人物たちの息づかい、シーンごとに流れる音響効果が、物語の世界をより鮮やかに彩っています。ぜひ、文章だけでなく音でも この物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。それでは、どうぞ最後までお楽しみください(CV:桑木栄美里)【ストーリー】<『10年目の成人式』>[シーン1/成人式会場]「成人おめでとう!」「おめでとうございます!」「おめでとう!」華やかな振袖たちが、踊るように成人式の会場へ吸い込まれていく。私が身に纏うのは真紅の振袖。大きな花弁の椿が咲き、優雅に蝶が舞う吉祥紋様(きっしょうもんよう)だ。『聖なる花』である椿は『永遠の美』という意味を持つ。卵から幼虫、さなぎへ。そしてさなぎから羽化する蝶は不老不死の象徴。未来を祝福するような艶やかないでたちが、私の心を逆撫でした。寒空(さむぞら)のなか、私は鬼の形相で会場の入口に立っている。あれは1か月前。彼と一緒に、着物の衣装屋さんに行った。初めて着る振袖に、いや、七五三以来初めて着る着物に不安いっぱいの私。『ここから会場までどうやって行けばいいの?』とっさに彼が言った、『僕が送っていくよ』このひとことにどれほど安心したか。『僕のSUVなら車内も広いし、安全運転だから大丈夫さ』よくものうのうと、そんないい加減な言葉を口にできたものだ。成人式の日。着付けが終わっても、待てど暮らせど現れない彼。泣きそうになる私に、お店の人がタクシーを呼んでくれた。成人式の会場に着いてからも、私は30分以上待たされている。首長の挨拶も来賓の祝辞も、とっくに終わっているはずだ。あきらめかけて、会場へ入ろうかと思ったとき、黒いSUVが私の前で急ブレーキをかけた。■SE/急ブレーキ〜車のドアをあける音『ごめん!』慌てて車から降りてくる彼。鬼と化した私を見て、一瞬ひるんだが、『朝クルマが急に動かなくなって』『寒波で電気系統がやられたらしい』『ドイツ車って意外とそこ弱いんだ』と、言い訳以外のなにものでもない言葉を私に投げつけた。私は怒りを抑え、眉間に皺を寄せたまま微笑み、『もう、さよならしましょ』と、彼に告げた。彼の表情がゆがみ、泣きそうな顔になる。『ちょ、ちょっと待ってよ』『ホントなんだってば』『連絡くらいできるでしょ』『したよ!LINE送ったじゃないか』私は、自分のLINEの画面を彼に見せて、『どこに?』私のスマホを見て彼は焦る。『そんな!ちゃんと送ったのに』『クルマが壊れて動かない、タクシーで先に会場へ行ってくれ、って』『あなたに言われなくても来たけど』『すまない』『これが私とあなたの相性なのね、きっと』『そうじゃないんだ』『もうあなたの顔なんて見たくないから』『ホントに悪かった。謝罪を受け入れてほしい』『無理でしょ』『お願いだ』『こんな気持ちのときになに言われたって無駄』『じゃあ・・・待つよ』『どうぞご勝手に』『いつまで待てば許してくれる?』『そうね・・・』『10年後の今日、ここでもう一度謝ってくれたら許してあげる』『え・・・』彼は私の目をじっと見つめ、なにも言わなかった。そりゃそうよね。この言葉自体が、謝罪は不可能だって告げているわけだもの。成人式の会場でも、私と彼は離れて座り、一切言葉を交わさなかった。帰りも別々に帰っていく。衣装屋さんで着付けを解き、家に帰った私は泥のように眠った。[シーン2/月日は流れて】成人式から1年後。風の噂で、彼が結婚したと聞いた。当然、私にインビテーションが届くわけもなく、私は心の...
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